第2回 能meets殺陣終わりました

レポート

昨月29日、岸和田にある杉江能楽堂にて、第2回目となる「能meets殺陣」発表会が行われ(と申しましても、いつもの一曲解説等の一環としてのコーナーの1つですが)、参加者皆様無事に稽古の成果を発揮されました。

演劇の世界でも「殺陣」はよく行われるそうで、刀を持って人と戦うというシーンは、舞台でも映画でもよく観られます。
ですが、もちろん本当に殺し合いをしているわけではありませんし、刀は本物ではありません。
あくまで「作り事」の世界。

能でも「斬り組」と言われる、チャンバラのシーンが演じられる事があります。
「殺陣」という言葉は実は使いません。

私はふと、「能の斬り組をお客様に体験していただいたらどうだろうか」とスタッフの方に相談し、今年1月に第1回目が実現。
事前に募集をし、月に1回の稽古が3回、そして本番に挑みます。

なぜこの企画をしたいと思ったのか。
日本刀が流行り、そのようなアニメが人気になったから…ではありません…いや、それも少しありますが。

一番の理由は、「プロと共演してほしい」

ということです。

稽古の時には勿論、すり足の事、体の構えの事、刀の扱いの事、能舞台の上でのルール等、様々お伝えします。
参加者は刀で色んなチャンバラの形を学ばれ、稽古を重ねる内段々と様になってきます。
能の小道具である刀は、実は折れやすいので、その扱いにも心を配っていただけるようお伝えします。
そのお陰で、2回共に刀の破損はありませんでした。
「参加者の皆様、刀さばきも大丈夫!刀も折らないように気を付けていただいてますし、もう完璧!では本番頑張りましょう!」
…で、終わりではないのです。

私が望むのはそこから先の話。

舞台に上がった時の「見えない力」。
それを感じられるかどうか。
自分は斬られることが決まっていて、「ここで相手と刀合わせて、ここで入れ違って、このタイミングで斬られて…」と、決まり事の中で進んでいくのですが、その決まり事の枠からはみ出す部分が本番には必ず出てきます。

私は若い時分はよく、この斬り組の役に当たり何度も斬られてきました。
斬られる時には「宙返り」や、直立のまま後向きに倒れる「仏倒れ」等、危険な所作があります。もし怪我でもしないかと本番の日までとても不安です。
でも当日舞台に立つと、全然怖くないのです。
そして、自分は斬られるはずなのに、「相手を斬って負かしてやろう」とすら思った事もあります(良くないことかもしれませんが)。

それは舞台の「見えない力」です。

演技というものは、普通役作りしてから舞台に臨む。
でも能は少し違う所があります。
習った事を舞台に出そうとするだけなのです。(勿論どのような役なのかは理解してからの話です)でも、本番の舞台に出て始めて、自分の役の何たるかが背中に乗っかる。
舞台に出て始めて、自分の役に気付く事があります。

「見えない力」が一体何なのか、参加された皆様はおそらく感じてくださったろうと思います。
相手の目を見たとき、刀が合わさった時、仲間が斬られていくのを見た時…。
単に、互いに役作りをした事の披露の仕合いでは、劇が生まれません。
今回はおそらく皆様、必死に段取りを覚えて、必死に体がブレないよう力を入れて、必死に姿勢を正して。でもそれが結果、「劇的」になったように思うのです。

その見えない力を体感するには、「プロと一緒に舞台に立つ」事が良いと私は考えています。
我々プロも、逆に参加者からの「気」を感じて舞台を勤められました。

「気が付けば終わっていた」と、参加者の皆様からよく感想を伺います。
おそらく相当に集中されていたのだと思います。
これは、経験を積めば、舞台の数をこなせばもっと客観的に舞台に参加できるようになります。

「見えない力」を感じ過ぎて、それに負けてしまう事もよくあろうかと思います。
それは何度も舞台を経験するしか解決はできません。
でももっといけないのは、この「見えない力」を感じないまま舞台を終えてしまう事でしょう。

ご来場いただきました皆様、ありがとうございました。
そして参加者の皆様、本当に素晴らしい舞台をありがとうございました、お疲れ様でした。