ファミリーミュージカル!

お知らせ

歳を重ねてきたからか、「目に見えないもの」を見たがるようになりました。
舞台に出ていても、具体的な所作やセリフよりも、そこに留まる「気」や「思い」のようなもの。
「上を見る」という所作一つにしても、気持ちは本当に上を見ているのか、お客様からはその「気」は見えているのか。

3月27,28日の2日間、吹田にあります吹田市文化会館メイシアター 中ホールにて、

メイシアター開館35周年記念 メイシアター・千里金蘭大学共同事業 
ファミリーミュージカル「ヒトクサリの大会」

が行われます。

これは子供から大人まで幅広い市民の方々が参加する事業としてずっと続けてきたファミリーミュージカルが、平成19年度より地元大学との連携を深める事を目的に、千里金蘭大学の学生が出演者、スタッフとして参加し、市民・大学生・プロの演劇人が一緒に作り上げる、地域に根差したオリジナルの舞台です。

作・演出を、劇団「空晴(からっぱれ)」の岡部尚子さんが担当。
岡部さんは近年能に大変深い造詣をお持ちで、現代演劇の役者さんにも是非能を勉強するべきと、常日頃能への深いご理解をいただいております。

今回の舞台「ヒトクサリの大会」は、実は能の演目「大会(だいえ)」をヒントに作られたと岡部さんからお聞きしました。
能「大会」は、ついこの間私が「能meets能」にて勤めました。

能のどのような要素を取り入れられたのかは、ここでは申し上げないでおきますが、我々の普段行っています能が、現代の演劇に影響を与えることができているのは、ひとえに「能の力」だと思っております。

これも種明かしになるといけないのであまり申せませんが、ミュージカルのある演出に能の演技が行われるとの事、所作指導でメイシアターに稽古に通っています。
メンバーは小学生もいれば中・高、そして大学生。上は私よりも年配の方々が一緒に舞台に参加しています。
皆さんは自ら応募され、オーディションを経て参加されており、稽古場にはやる気が漲っています。

初顔合わせの時、皆さん一人ずつ自己紹介が行われましたが、本当に皆さん潑剌とされており、圧倒されました。勿論、ミュージカル経験の乏しい方も中にはいらっしゃるだろうとは思いますが、少なくともそこには「気」がありました。
そしてその「気」は稽古を重ねた今も、尽きる事なく燃焼し続けているように感じます。

この皆さんの、目に見えない「気」を、お客様に伝わるように補助するのが、我々指導者です。従ってどんなに素晴らしい指導者でも、演じる人に「気」がなければどうにもなりません。

こう表現したいという「気」が、自分の体に何らかの働きかけを行い、それが舞台に「滲み出る」と私は思っています。
ただ力を入れればいいとか、大きい声が出ればいいという事ではない、何らかの働きかけ。
「目をみればその人のやる気が分かる」なんて言いますが、それも体の中から体の外への働きかけの一つかもしれませんね。
「体の中が先に動いて、それが外に発現される」事が大切で、どれだけ上手にダンスを踊っても、上手にセリフを言えても、気持ちがなければいけません。

「間違えないようにしよう」
「あの人が観てるから、頑張ろう」
「とにかく自分の役になりきろう」
…色んな思いはあるでしょうが、それらの気が、体に何らかの作用をもたらすのです。

自分の思いを伝える為にはその事がわからないといけません。
やる気だけでも駄目ですし、器用なだけで思いが空っぽでも具合が悪い。
器用な舞台でいいなら、そのうちロボットが舞台をつとめる事になるのではないでしょうか。

世阿弥曰く「稽古は強かれ、情識はなかれ」

自分の思いを舞台に出すには、やはり稽古しかなく、しかも、「稽古したから大丈夫」と思っては絶対にいけません(私はこの言葉はかなり厳しい言葉だと思います)。
本番に出るまで、内臓が飛び出しそうな位悩んで苦しんで。
セリフ一つ声を発する直前まで悩んで苦しんで。
そういう道を舞台人は選んでいるのです。

今回の舞台は、岡部さんをはじめ音楽にクスミヒデオさん、振付に斉藤千秋さん、そしてあらゆるサポートに空晴の皆さんという素晴らしい指導陣がメンバーを見守ります。
気が満ち溢れるメンバーと、それを引き出そうとする指導者達。
本当に良い空間に立ち会う事ができ、嬉しく思います。

今回の私から皆様への所作指導は、敢えて少し難しい事を言わせていただいております。
私の指導がちんぷんかんぷんだなと思っている人もきっといらっしゃると思います。

先程も申し上げましたが、今回の舞台のメンバーは皆、「自ら舞台に出る事を志願した人達」です。
ほんの束の間かもしれませんが、「舞台人」になる事を選んだ皆様です。

この指導で私は何も能楽師を育てているわけではありません。
でも、もしかしたらこの中には「舞台人」になる人が出てくるかもしれません。

悩んで苦しんで。悩んで苦しんで。悩んで苦しんで。
悩んで苦しんだからいい舞台ができるかどうかも分かりません。
能に限らず、舞台とはそういう空間です。
舞台に出られる「楽しさ」、そして舞台に出る「怖さ」。
これが分かれば、私はまずは舞台人としての「気」が備わるような気がしています。

皆様是非この「気」を感じに、メイシアターにいらしてください。

「ヒトクサリの大会」公演詳細