横浜で「石橋」勤めました
レポート昨年よりの新型コロナウイルスが猛威を奮い、まだまだ収束しない日が続きます。
現在(5月10日にこの原稿を書いております)は緊急事態宣言下ですが、この宣言が発令される前、4月15日に横浜ベイホテル東急におきまして、「日本医学放射線学会」が行われ、その催しの一環として、半能「石橋」を勤めさせていただきました。
一ヶ月後のブログ掲載と大変遅れてしまいました。
「ホテルでお能?!」と驚かれる方も多いかもしれません。
実は式典や祝宴等の場で能が演じられる事はよくあるのです。
結婚式や、団体の周年パーティー、勉強会のような時にも。
観ているお客様が退屈しないか…と思われますか?
実はこのような時には「半能」といい、後半の盛り上がる部分だけを勤める事が多いのです。
実際に今回の「石橋」は15分かからなかった位。
その短い時間に密度の濃い舞台を披露します。
世阿弥も、「その時その時の状況に応じた舞台をするべき」と説いています。
…やはり本当は全部ご覧いただきたいのですが。
その場にお越しのお客様の殆どは、能に触れた事のない方々。
それもそのはず。普段の能楽堂のお客様は、少なくとも「今日は能を観る」事を意識しておられる。しかしこのような祝宴や式典は、決してお客様が能を意識されてませんし、その日に能があるということをご存知でない方ばかりが参加されてるケースが多いのです。
しかし、この短い時間のこの空間に世界に、皆様集中してご覧いただき、終演後は大変に大きな拍手を頂戴した事が印象に残っています。
いつもと違うお客様に、どう見せるか。
今回の舞台がつまらないものならば、その方はきっと能を二度と観たいとは思わないでしょう。そうなると、私は能のファンを一人減らした事になります。
一発勝負。
そのような事を常に考えます。
勿論それは能楽堂での舞台も同じ事です。でもホテルのようなイレギュラーな舞台でも、手を抜かずきちんと勤める事が大切です。
このお仕事は、一年以上前にある落語家さんから承りました。
その方とは以前何度か仕事をご一緒させていただいておりましたが、舞台に真摯な方で私もその方の芸を拝見し、その姿勢に感じ入っておりました。
その方からのご依頼、大変に緊張しました。
またコロナの事もあり、参加者はじめあらゆる規模が小さくなり、開催も危ぶまれました。
また限られた予算内が更に縮小する破目になりました。
その落語家さんとも数度連絡を取り合い打合せしましたが、「どうしても成功させたい」という強い想いに何とかお応えしたいと考え、能の出演者の方々にはご無理を申し上げました。
そうすると皆さん優しく受け容れてくださり、当日はつつがなく会を終える事が出来ました。
舞台を勤める前に、その舞台をなぜ行いたいのかという「動機」があって、そして「舞台」が行われる。
どのように行いたいかという「動機」があって、そのように舞台が進行する。
舞台とは色んなものを背負って立つという、当たり前の事を改めて感じます。
「石橋」終了後、着替えてから、その落語家さんの舞台を袖から全て拝見させていただき、横浜を後にしました。
この舞台に関わってくださった皆様、本当にありがとうございました。