邯鄲かんたん
夜昼となき楽しみの 栄華にも栄耀にも げにこの上やあるべき
人生に疑問を持つ中国の若者・盧生。彼は仏道の師を求めて旅をする途中、邯鄲の里で雨宿りをする。その宿の女あるじが、かつて仙人を泊めた時に御礼にもらった不思議な枕を見せて勧めるので、借りて昼寝をすることにする。すると、楚の皇帝からの使いが来て盧生を起こし、帝位を盧生に譲ると告げる。宮殿に案内されて即位する盧生。栄華を極めていると、気づけば即位五十年の酒宴の場。童子の舞を見て気分が良くなり、自分も舞って興じていると、ふと宿の女あるじに起こされる。全ては粟の飯が炊けるまでの、短い夢の中の出来事であったのだ。呆然としていた盧生だが、人生のなんたるかを悟り、心安らかに故郷へと戻るのだった。
まめ知識
この能《邯鄲》の演技の中心となるのは、たたみ一畳分の広さの台・一畳台です。最初は宿の粗末な床を表現しますが、夢の場面に入ると、突然、宮殿の玉座となり、それがもう一転して、起こされる場面ではふたたび粗末な床に戻ります。簡素な舞台装置を使用する能ならではの表現方法です。
ハイライトは、この一畳台の上での盧生の舞です。狭い台の上で、柱にぶつからないように、しかも大きく舞わねばならない至難の演技です。途中からはノリに乗って台の下におりますが、最後には勢いのよく謡われる謡に乗って、勢いよく台に飛び乗るや否や、横たわる演技で夢から覚める場面を表現します。
哲学的なテーマと、能ならではの舞台転換、そしてアクロバティックな演技が組み合わさった佳作の能です。
最終更新日:
和の会 於・大阪能楽会館