花月かげつ

来し方より 今の世までも 絶えせぬものハ 恋と言へる曲者

七歳の子が行方不明になってしまい、それを契機に父は出家する。その父が都・清水寺に参詣した。案内を頼んだ門前の者から、花月という少年が面白く舞うことを聞き、呼び出してもらう。花月は自らの名前の由来を語り、門前の者と共に恋の小歌を楽しみ、花の枝に留まる鶯を弓で狙ったり、また僧の所望で清水寺縁起の曲舞を舞ったりしてして遊ぶ。父が花月をよく見ると、果たして成長した我が子であった。花月は門前の者との名残りに羯鼓を打ち、幼い時に天狗にさらわれて諸国の山々を巡った思い出を物語った末、父に伴われて修行の旅に出るのだった。

まめ知識

あらすじとしては親子再会の話ですが、むしろ花月が演じる様々な芸が曲のメインとなっています。終曲部の謡も、天狗にさらわれて巡った山だとされていますが、むしろ一連の物の名前を並べた「山尽くし」として、言葉の面白さを狙って作詞されています。

作者は分かりませんが、世阿弥時代から存在した古作の能だとされています。特にシテがアイと共に謡う「来し方より…」という小歌は、元々自由に謡っていたものに、能の拍子を当てはめたらしく、特殊な拍子扱いとなっています。

シテがかける面は、額の銀杏のような前髪が印象的な「喝食」という面で、寺で僧侶の食事の世話などをした少年の面影を伝えています。喝食には容貌の優れた者が多かったといい、美少年が様々な芸を見せる面白さを描いた佳作です。

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花月

アートによる能案内 於・山本能楽堂