オンライン稽古

レポート

能楽師は、舞台に出演したり講座を行ったりすることはもちろんですが、その他に「教室」を開催して、能の謡や舞を、習いに来てくださる皆様にお教えしています。私の開催する教室は大阪には4箇所、奈良には2箇所、佐賀2箇所、徳島1箇所。そして最近東京に教室を開催しました。

大体の教室が月2回、日中をはじめとして、学校帰りや会社帰りに皆様お越しになられます。

※教室は見学自由ですので、詳しくは 大の会ホームページの「お稽古の案内」をご覧ください。大の会お稽古の案内

しかし、昨今のコロナ感染問題により、舞台中止だけでなく、この教室の閉鎖もしないといけなくなりました。私の教室は4月の頭から全ての稽古場を中止にいたしました。
教室の生徒さん(我々の世界ではお弟子さん、お社中さんと呼んでいます)の中には、このような状況の中でもありがたいことに「オンラインでも稽古を続けて欲しい」と仰ってくださる方もありました。

「オンライン稽古」は、LINEやZoomなど、分かりやすく申しますと、テレビ電話の類を使って自宅にいるお弟子さんに稽古をするということです。

私は、この稽古の仕方はどうしても「伝わることも伝わらない」気がしていたのですが(今でも思っています)、稽古しないで習得が止まってしまうよりましかと思い直し、最近稽古を始めました。

大阪の岸和田にあります「杉江能楽堂」様がこのことに理解を示してくださり、是非使ってくださいと仰っていただき、ありがたくもお邪魔して、ご希望の方にオンラインにての稽古をさせていただいております。(私だけ、又は最低限の人数しか能楽堂に入らない、消毒等の対策、車にての移動など対策は勿論致しております)

初めての時は、大変戸惑いました。操作を間違えてLINEのこれまでの会話記録を全て消去してしまったり、仕舞の稽古なのに携帯電話のスクリーンで設定したので、お弟子さんの動きが全く分からなかったり。

例えば私が謡ってお弟子さんがそれに合わせて足拍子を踏む時は、やはり音や画像が遅れたりする影響でやりにくいですね。また謡う時の微妙な息づかいなども、伝わってるのか不安になります。

しかし、体験してくださった方は、喜んでくださいました。「いつも先生の背中を見ながら一緒に舞っているのが、オンラインになると画面越しとはいえ、向かい合って稽古するので新鮮です」との事。なるほど新しい発見もあるものです。

自宅にいながらにして稽古ができる。また機能によってはそのまま記録もできる。時間の調整もしやすい。そしてなにより安全である。

もちろん、いつものように対面でお稽古できる日が早く来ないかと願っています。

しかし、これも新しい形で、このような稽古が必要になる方もいらっしゃるでしょう。

かつて佐賀の呼子でお稽古させていただいてました、赤司アキさん。お一人で謡や仕舞、手芸や短歌を楽しみに暮らしておられましたごが、ご高齢の為にやむなく北海道のご親族の元に行かれる事になりました。

「他の趣味はやめても構いませんが、謡だけは心残りです」

そう笑っておられました。扇や謡本は他のお弟子さんに引き継がれ、ご自身は本当に大好きだった数曲の謡本だけを持って北海道に行かれました。その後もお手紙や、直接遊びに行ったりさせていただきましたが、その度に「林本先生が北海道に来てくださったらまた稽古ができる」と寝たきりのベッドの上で、やはり笑っておられました。
昨年惜しくも他界されました。96歳でした。

オンライン稽古をもっと早くに知っていればと思います。

色んな可能性を考え、柔軟にお稽古をさせていただく。謡や仕舞を習われる方の目的は様々ですが、稽古をする事で「心が豊かになる」のは、今回のコロナ問題でそれが遮られた事で、皮肉ながら再確認できました。

心が豊かになるためには、習う皆様のご負担を少しでも和らげる。仕事で稽古場に通う時間のない方には、オンラインで稽古が出来るならばその方が喜ばれるのかもしれません。

まだまだ慣れませんが、引き続き「オンライン稽古」行います。ご興味のある方は是非このホームページからご連絡ください。