カカリのススメ

お知らせ

大学生の時、能の謡本と学生券を持って、色んな能公演を観て回りました。手帳には授業の予定ではなく、何時にどこの能楽堂で何の演目が行われるのかをギッシリとボールペンで書きました。
当時は、勿論能のすべてを理解しているわけではなく、何のセンスもない私が季節感をそこに感じていたわけでもなく、古文が苦手でしたから勿論セリフの中にちりばめられた和歌を発見することもありませんでした。

ただ、大鼓の一瞬の静寂からそれをまた一瞬で突き破る凄まじいたった一発の音。ずっと静止していた演者がふと二足だけ後退りした時のハッとした感じ。演者が自身に着けているその能面をわずかに右上に向けはじめたときの世界の広がり・・・そのような、能のふとした演技に魅力を感じたものでした。つまり、能全体の時間を楽しむというよりも、ふとした謡や楽器の音や、ふとした演者の所作に魅かれていました。
その魅力の根源が、「息のつめひらき」にあるということは、この世界に飛び込んでから知る事になります。
囃子の演奏の中に「早鼓(はやつづみ)」があります。
これは小鼓と大鼓が掛け声もなく、ただ交互に打つだけというシンプルなもの。
皆さんは「早鼓」という言葉を聞いて、大変スピード感のある、歌舞伎の囃子などでみられるような連打を想像するかもしれません。しかし「早鼓」は、皆さんが想像するスピードとは程遠いほど、はやくありません。
なぜなら、能の囃子は「一球入魂」の世界だから。一回小鼓を打つまでに、体の中にぐっと「こらえる」もの「ためる」もの「力む」ものというか、手を鼓から放すための起動となる「なにか」があるわけです。体内にその「なにか」を籠めて、そしてようやく手が鼓から離れる。それからまたその手が鼓に向かって打ち込まれるまでの間も、ある方の言葉を拝借すると、「全ての内臓を止めている」状態があり、そうしてようやく手が鼓に当たり音を発します。
主役が舞台上でじっとしていることが多い能では、その主役がようやくじりじりとその向きを右方にゆっくり変えていく、そこに説得力がないといけません。客席からは、「やっと主役が動いた!」と思わせる、印象付ける力。それは何かというと、「それまで止まっていた」からです。ただじっと止まっていればよいのではなく、自身の体を舞台上でどう保てばよいのか。それは修行の段階で役者は稽古することになります。

私は近年、毎年能公演を打ち立て、「大の会」を隔年「能meets能」では毎年行っております。「大の会」は、自身の研鑽が目的です。「能meets能」は、広く皆様に能の魅力を知っていただけるための発信を行っています。
本年は10月27日に「大の会」で隅田川と石橋の2番を予定しておりますので、「能meets能」の開催はしないつもりでした。
しかしあるご縁を頂戴したこともあり、本年特別に、完全ないつもの能公演ではありませんが、
「能meets能カカリ」
という公演を開催します。

能の公演は、例えば春だから「熊野(ゆや)」「桜川(さくらがわ)」を演目にして、季節感をお客様に感じてもらおうとか、少し上等な能装束をお見せしてその豪華な衣装を楽しんでもらおうとか、違うジャンルとコラボをして、気軽に触れてもらおうという風に内容が決まる事があります。しかし私は、それよりももっと先に「しないといけない事」があるように考えています。本当に能の何をみせたいのか。私は能の何に感動をして、それと同じ感動をお客様にどのように伝えたらよいのか。
私は能の家には生まれていませんので、もともとは「客席にいた」側。だからこそ、もっとよく考えて能を発信しなければと思います。

今回はそのような私の考えを、スタッフ始め様々な関係者の皆様が実現に導いてくださいました。
演者には、私が思う能の魅力を発信してくださると信じるメンバーに依頼をし、快く引き受けてくださいました。また今回は能楽堂での公演ではありませんので、それも利点と捉え、舞台監督や照明・音響も取り入れ、ホールだからこその見せ方も考えます。今は各スタッフ皆様と打合せを重ね、どのようにお客様に御覧いただくかを一丸となり懸命に練っている処で、この時間もまた私にとっては楽しい時間です。

いつも能の公演をご覧になられている方々には、少し物足りないかもしれません。しかし、こういう魅力をどのように今後も発信していくか、今回はその良い機会であると捉えております。

「カカリ」とは、舞の序盤の事。能にこれから触れてみたい方、是非ここから能にかかっていただきたいと思います。あの時の私のように。

能meets能カカリ

7月18日(木) 19時開演
上演時間:約100分
受付:18時15分 開場:18時30分
扇町ミュージアムキューブ CUBE01

出演能楽師

シテ方
味方團(京都)
武田宗典(東京)
山中雅志(大阪)
今村嘉太郎(福岡)
上野雄介(大阪)
笠田祐樹(神戸)

林本大(大阪)

ワキ方
江崎欽次朗(神戸)
原 陸(京都)

囃子方
笛 斉藤敦
小鼓 成田奏
大鼓 山本寿弥
太鼓 上田慎也

チケット

エリア別自由席
S席(センターブロック前方)
A席(前方端・センター後方)
車いす席

料金
S席 4,500円
A席 4,000円
U22 2,000円
※22歳以下(入場時 要証明書 A席エリア)
※当日券はそれぞれ500円UP

今回はエリア別自由席です。指定席ではありません。
当日開場時間18時30分に、チケット記載の番号順にご入場いただき、指定エリアのお好きな席にお座りいただきます。

一般発売
5月30日 10時より
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noh_dai05@yahoo.co.jp
件名:カカリチケット
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