大曲「道成寺」をつとめさせていただきます。
お知らせ来る十月三十日(日)大槻能楽堂におきまして、「故山本眞義十七回忌追善能」を催させていただく事となり、私が能の名曲であり大曲である「道成寺」のシテ(主役)を勤めさせていただく事となりましたので、ご案内申し上げます。
能楽の家に育たなかった私が、大学のクラブで山本章弘師に出会い、能楽の道を志し、故山本眞義師の元に入門しました。芸の事は勿論、お茶の出し方や手紙の書き方、能役者として、社会人としてどのように生きていくべきかという、およそ学校では教わらない事を沢山教わり、十年間の内弟子修行を経て平成二十一年に独立を許されました。独立の後もたくさんの皆様に支えられながら舞台を多数勤めてまいりました。
「道成寺」は、舞台に登場する前の幕の中、お客様からまだ見えないところでも既に演技が始まり、登場の仕方も非常に難しい「習の次第」、女の不気味な様を謡で表現する「道行」、大鼓一人だけの演奏に合わせ遠くから鐘を見上げる「執心の目附」、この曲の最骨頂ともいうべき、小鼓との一騎打ちである「乱拍子」、その長い緊張状態が爆発をする「急の舞」から、失敗すると命にもかかわる「鐘入り」。鐘の中でも口伝により、真っ暗な中で衣装の着替えをし、鬼女に姿を変えます。そして僧侶達との激しい戦いである「祈り」……。色々な見せ所がございますが、その分たくさんの決まり事をこなし、「道成寺」を勤めなければいけません。
先日家元より、「沢山の決まり事を、教わった通りにする事が大事なのだよ。上手に舞おうなんて思ってはダメですよ。」とお言葉を頂戴しました。師匠から教わった事をそのまま演じる。これこそが「伝承」なのだと感じています。
能役者の卒業論文と言われる「道成寺」を、観世流家元のお許しを得まして、演じさせていただく運びとなりました。その他観世流御宗家・観世清和師に御来演下さり舞囃子「海士」を、山本章弘師が老女物の難曲「卒都婆小町」を、他にも大変豪華なキャストとなっております。このような会で大曲を勤めさせていただく事、身の引き締まる思いですが、精一杯演じる覚悟でおります。
これまでの私の能楽人生を支えてくださいました皆様に、是非ともお越しいただきたいと思っております。「道成寺」をご覧いただき、修行の成果をご披露できればという気持ちです。
ご多忙の折恐縮ではございますが、是非お越し下さり御高覧賜りますようお願い申し上げます。お申し込みはdainokai.comのチケット申し込みページのほか、お電話などでも受け付けております。