第三回大の会、ありがとうございました

お知らせ

あれから一か月も経ってしまいましたが、10月27日神戸の湊川神社神能殿にて行われました「第三回 大の会」について、まだ何も書いておりませんでした。言い訳になりますが、会終了後も次の舞台や事務作業に追われていたことと、当日の舞台写真が出来上がってから皆様にご報告しようと思っており、遅くなってしまいました。

あらためまして、ご来場いただきました皆様には厚く御礼申し上げます。そして、舞台にご出演くださいました能楽師先生方、この日の為に色々と尽くしてくださいました大の会スタッフの皆様、本当にありがとうございました。

 企画の段階では、能「隅田川」を演じてみたい、この事だけ自身の中で決めておりました。スタッフと協議を重ねていく内に、「二番能ではどうか」という話に。私は当初乗り気ではありませんでしたが、スタッフの熱意も汲み取り、どうせ二曲演じるならばこの二曲が一つのテーマを持ったものにしようと考えました。

「親子」「師弟」というテーマを設定し、もう一曲を「石橋」に。赤獅子は何度も演じておりますので、山階師に申し上げ、「師資十二段之式」という特殊演出で勤めさせていただくことにしました。配役もテーマに沿って考え、例えば「隅田川」には囃子や地謡に重鎮の能楽師を配し、「石橋」には中堅や若手で揃えました。例えば「隅田川」を小鼓の成田達志氏に、「石橋」にはそのご子息成田奏氏にお願いするというような配役も致しました。

当日は事前講座として、武田宗典氏による解説、そして成田達志氏・山本哲也氏・江崎欽次朗氏で対談を行い、「親子」「師弟」のテーマでお話しをいただきました。私はこの時間楽屋でバタバタしており、残念ながら内容を聴くことができなかったのですが、ご来場の皆様からは「とてもいい話が聞けた」「泣きそうになった」と仰っていただきました。

反省点としては、これは会終了後山階師からもご指摘いただきましたが、二曲も演じないといけないので、装束や準備の事等しないといけない事は山ほどあるのですが、それをなるべく自分でしようとした事。バタバタしたまま舞台にでていくような形になってしまい、やはりそういう事は芸にも影響してしまいますので、以後任せられる所は他の人に任せようと感じました。

二曲勤めた事自体は、実はそんなにしんどいとは思いませんでした。むしろ、一日で何曲かと演じる事は、能楽師として「できないといけない」事なのだなというのが私の感想です。また機会があれば二番能も挑戦してみたいと思います。

最後に、この日は大変大切な日でもありました。「石橋」のワキを勤めてくださいました、江崎正左衛門氏が、この舞台をもちまして「引退」をするという事を、ご子息欽次朗氏より聞いていたからです。何十年も舞台を勤めてこられた方が、引退を決めるその覚悟というのは、まだまだ若い我々には想像も及ばないことです。でも自分もいつかその日はやってきます。今回の「石橋」を舞台生活の終止符にお決めいただきました正左衛門氏は、「石橋」が終わり、舞台から戻ってこられ鏡の間でご挨拶を致しました時に、「これで終わらせていただきます」と山階師と私に頭をお下げになられました。正左衛門先生、本当にお疲れさまでした。

今回の「大の会」を通じて、またひとつ目に見えない階段を上がっているのだなと自分でも痛感します。その階段があと何段あるのか、階段を上り詰めた先に何があるのかは分かりませんが、「きっと階段をあがっている」事だけは感じています。惰性にならず、演じてみたい何かが頭に浮かんだら「第四回 大の会」を開催したく思います。
皆様引き続きご支援くださいますよう、よろしくお願い申し上げます。