令和6年もお世話になりました。
お知らせ いつもの決まり文句ですが、本年もあっという間に過ぎていこうとしております。これを記しております現在12月25日、名古屋の東急ホテルで公演があります為、新幹線の車内です。この一年は本当に移動が多く、沢山の場所で舞台に立たせていただいたり、能のお話を致しました。しかしながらこの移動中に、次の公演の構想を練ったり、スタッフさんとの道中では、一緒に今後の予定を考えたりと、有意義な移動時間を過ごせました。
例年年明けは、東京赤坂にございます日枝神社にて山階彌右衛門師による奉納「一人翁」の地謡を勤めさせていただきます。令和6年は、東京から伊丹空港に戻り、そのまま豊中の住吉神社へ参り、仕舞「高砂」の奉納を、大先輩の方から任されました。この奉納はこれからも続く恒例行事になります。思えば今年は東京と大阪の奉納を終え、疲れた体で実家に戻り休んでいる所に能登地方の大地震、そして空港での惨事が起きました。来年は穏やかな正月を迎えたいものです。
このようにして始まりました令和6年は、1月14日に吹田市のメイシアター中ホールにて「新春能」を取り仕切り、能「土蜘蛛 入違之伝」を勤めました。その他能の主役を沢山演じる事ができました。「松風」や「隅田川」のような名曲難曲、「室君」「野守 白頭」のような稀曲も経験させていただきました。主役ではありませんが、「通小町」小町役、「玄象」師長役、「千手」重衡役といった重要な脇役も大変勉強になりました。最近は目が悪くなったのか、能面を掛ける事への恐怖や不安がいつもより増しておりますが、来年は能面をかけて稽古する等の対策をして克服するつもりです。
能meetsの活動も例年により拍車をかけて皆様にお届けできました。ホームグラウンドの大阪北浜は勿論、東京新橋や高知、博多や宇都宮といったレギュラーに加え、4月には札幌にも赴く事が可能になりました。各現地スタッフの皆様にはいつも能meetsの活動にご理解示してくださり積極的にお手伝いくださり、感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございます。
また能meetsでは新しい催しにも挑戦。「能meets能カカリ」では、「ワークショップ」と「能公演」の中間のような公演を企画。能の上辺でなく、本質をお客様に御覧いただけるようなものを考える事ができました。「能meets謡十徳」は大阪扇町で、毎月一回ワークショップを開催し、謡の稽古を通じて能を楽しんでいただける企画を開始したのも今年でした。
変わった活動としては、いつも公私共にお付き合いさせていただきます、劇団「空晴(からっぱれ)」の公演に、「ドラマトゥルク」として参加できたことです。能「隅田川」をモチーフに脚本「かえるかな、この道」を作られ、それを能楽の目線で私がアイデアを出したり、意見を述べさせていただいいたのも、その後勤めることになる「隅田川」への良い経験となりました。
そして令和6年が特別な年になりましたのは、3月に東京銀座の能楽堂にて、重要無形文化財総合指定保持者の認定式に出席させていただきました事です。あまり肩書とは無縁の私ですが、能楽師としての活動が認められましたことは自身嬉しく思います。それと同時に、これからの能楽師としての責務を一層強く感じる一日でした。
これから迎えます令和7年、明確な目標とは言いにくいですが、「活動を続けていく為の充電」を行いたく考えております。今後の講座・公演内容をどのように工夫するか、その為の移動や運営をどのように効率よく行うか。行き当たりばったりの公演にならない為にも、一度振り返らせていただく時間を作りたく思っております。7年は大の会主催の能公演「大の会」「能meets能」は、お休みをさせていただきます。
ただし、私の舞台がない訳ではありません。一番大きい舞台は松華会定期能の特別公演と題しまして、10月18日土曜日に神戸・湊川神社神能殿におきまして能「俊寛」という大曲を勤めます。是非皆様お越しください。
その他にも、様々な処からのご依頼で能の主役を勤めさせていただく機会に恵まれております。2月15日土曜日には高知の県民文化ホールにて、能「船弁慶 前後之替」を。地元の参加者を募り、月一度稽古に赴いており、当日はその参加者の仕舞や斬組も披露。このように、ただ公演を行うのではなく、能が根付くきっかけを色々と考えて参ります。その他まだ情報は公開できませんが、色んな会場で能の主役を勤めさせていただく予定です。
令和6年、私が行いました能meetsでの講座は42回、全国での動員はのべ990名様。勿論、大の会やそれ以外の公演も含めると、沢山の皆様が私の話や公演を聞きに、御覧になられました。心より御礼申し上げます。
私はいつも、自身が好きな能を、皆様に一体どのようにお伝えしていけばいいかと日々考えています。その結果、時間がオーバーしたり、話があらぬ方向に行くことも多々あり、スタッフ方々にはいつも呆れられています。まだまだきちんとした講座には程遠いですが、それも含めて皆様方には温かく見守っていただければ、ありがたく存じます。
48歳の年男を迎えます。白髪も増えてきましたし、目も悪くなり、激しい動きが体にこたえるようになりました。できない事が多くなってきますが、年を取ったからこそ見えてくるものもあるのだろうと思います。そのような事柄を、しっかり次の世代の能楽師に伝えていくことが、今後の私の責務だと、自身しっかり戒めて参ります。
令和7年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
観世流能楽師 林本 大