安達原 あだちがはら

平成23年5月1日 たにまち能 於・山本能楽堂

安達原あだちがはら

眞麻苧の糸を繰り返し、眞麻苧の糸を繰り返し昔を今になさばや
あらすじ

阿闍梨祐慶という山伏が諸国を廻る中、陸奥国安達原で宿を借りる。宿の主の女は憂き世に生きる辛さを歎きながら、糸繰りの様子を見せてもてなすが、夜が寒いので、と薪を取りに行く際に、留守中にくれぐれも閨の中を見ないように言い含めてから出かける。

祐慶の従者である能力(のうりき)が好奇心を抑えきれずに閨の中を覗くと、なんと人の死骸が山と積まれているではないか。驚いて逃げる祐慶たちを、鬼女の本性を現した女が追いかけ、約束を破ったことを責めて襲いかかるが、祐慶たちは不動明王に祈って追い払うことに成功するのだった。

まめ知識

観世流以外の流儀では《黒塚》と呼びます。平安時代の歌人・平兼盛の和歌「陸奥の安達原の黒塚に鬼籠もれりと言ふはまことか」を元に作られた能です。本来は、兼盛の歌人仲間だった源重之の妹が、陸奥の黒塚という地に住んでいると聞いて、「深窓の令嬢」と「姿を現さない鬼」を引っかけた洒落の和歌だったとされますが、後には黒塚には本物の鬼が住んでいる意味で理解されるようになりました。

あらすじとしては、いわゆる人食い鬼の話ですが、近年では「閨の中」を誰にも見られたくない心の闇の象徴として捉え、自らの弱みを強引に曝された時の、悲しい怒りを描いた物語と解釈されることもあります。鬼女がかける能面は「般若」で、その目元は怒りよりもむしろ悲しみを表していることも、この理解に通じるかと思われます。

文・朝原広基