道成寺へお参り

先刻よりご案内申し上げております通り、10月30日(日)「山本眞義追善能」にて、能の大曲・秘曲であります《道成寺》を勤めさせていただきます。

8月31日、丸1日空けて、和歌山県の道成寺にお参りに行って参りました。大阪から電車で2時間以上かかるのですが、久しぶりの旅行気分と、やはり厳粛な気持ちも交錯しながら、昼過ぎに「道成寺駅」下車。参道に並ぶお土産屋も、するべきことを先にしなければと思い、釣り鐘饅頭食べたいのも我慢して。

道成寺の門にたちはだかる長い階段。能《道成寺》の中の「乱拍子」では、この長い階段を蛇体が登っている様だとか。今回はそれも意識しながら少しゆっくりと登りました。

ご住職にお目にかかり、ご祈祷をお願いしようと思った矢先の事。

「随分以前に、山本先生とお越し下さいましたね」とご住職。

……びっくりしました。そうです。実は私、まだ内弟子中の10年前に師匠のお伴で道成寺に伺った事があったのです。その時は師匠が《道成寺》のシテをお勤めなられる時でしたので、ご祈祷の場は師匠のみ。私は境内の目立たないところに控えておりました。もちろんご住職とはほとんど会話しませんでしたが、なんとその時の様子をご住職は覚えて下さっていたのです!

「あの時は議員秘書さんのようにずっと立っておられましたね。あの時のお姿が印象的でした。あの時はお構いできず失礼しました。」と仰っていただきました。

「あの時お付きで来られてた林本さんが今度はシテをされるのですね。よろこんで、つつしんで、ご祈祷申し上げます。」……そのお言葉に胸がいっぱいになりました。

道成寺のご本尊は千手観世音菩薩。文字通り千本もの手をお持ちです。手をかえ品をかえてそのたくさんの手が我々を守って下さる。

「能の《道成寺》もその手の内の一つのような気がするのです」とご住職がお話しくださいました。能の《道成寺》を勤める事がお客様と仏様の架け橋になる、そのような気持ちで舞台に臨んでいただきたい……なんとも高いハードルまで頂戴しました。

ご祈祷が済んだ後も、しばらくお寺にとどまり、ゆっくりと時を過ごしました。

先日のラジオ出演の桂春蝶さんや、道成寺のご住職。《道成寺》を勤めさせていただくにあたり、かようにたくさんの方から見守られている。

《道成寺》を勤めるにあたり師匠が下さいましたお言葉、「先生方や先輩方、そして多くの皆さんが大きな風呂敷を広げてくれている。君はその真ん中に降りてくればそれでいいんだよ」その意味を少しずつ実感する、そのような1日でした。